続きでっせ。 ミトロン「雨。憂鬱な気分。僕の気分みたいだ。好きじゃない」 レイ「夕日。消えていく命。私の願い。好きじゃない」 アスカ「朝。今日の始まり。嫌な一日の始まり。好きじゃない」 ミトロン「青い空。暖かいホール。慣れない台。怖い台。当たらない台。好きじゃない」 アスカ「みんな、みんな、大ッ嫌い!」 ミサト「何を願うの?」 ――ハズレが怖い? アスカ「何が欲しいの?」 ――当たりが欲しい? レイ「何を求めているの?」 ――ハズレないで! アスカ「激アツをハズさないで!」 ミトロン「怖いものは……」 ――激アツはずし ミトロン「欲しいものは……」 ――当たりと出玉 アスカ「打っていてもいいの?ここにいてもいいの?パチンコのこと好き?」 ――パチンコのこと、好き? 幼いアスカ「ホールに行きたいの?」 アスカ「行きたくない」 幼いミトロン「当たりを見に行かないの?」 ミトロン「行きたくない」 幼いミトロン「どうして?」 ――怖いから ミトロン「当たらないのが怖いから」 アスカ「お金が消えてしまうかもしれないから」 ――だから? ミサト「何を願うの?」 ――不安の解消 レイ「何を求めるの?」 ――寂しさの解消 ユイ「幸せではないのね……」 ミトロン「その前に欲しいんだ。僕に勝ちが欲しいんだ。誰も自分を捨てない、大事にしてくれるだけの勝ちを」 ユイ「それはあなた自身で認めるしかないわよ。自分の価値を」 ――だから、パチンコを打っている ミトロン「僕には勝ちがない」 アスカ「生きていくだけの価値がない」 レイ「では、確率って何?」 ミトロン「じゃ、確率って何?確率ってなんなんだ!?」 ミトロンは思考の渦に落ちていく。全ての境界が曖昧になり、何も無い世界へと落ちていく。 ミトロン「……当たる確率ってなんなんだ?」 ――どこに分布するんだ? レイ「確率は確率。ただ、確率自身の広がりと分布がある」 ミトロン「そうだ。僕の存在、他人の存在、台の存在。それらが確率の一部」 レイ「あなたの意識で繋がっているモノ」 ミトロン「確率と感じているものが確率。確率は確率でしかないのか?でも当たりがわからない。当たりはどこにいるんだ?当たりってなんなんだ?確率ってなんなんだ?」 ――だから確率の収束を、願う ミトロン「誰もいつ当たかなんて解ってないんだ」 アスカ「あんたバカぁ?そんなの当たり前じゃん!誰も当たりのことなんか分かんないわよ」 ミサト「自分の幸運を予感し、理解できるのは自分しかいないの」 レイ「だから自分の感覚を大事にしなさい」 ミトロン「そんなこと言ったって自分がないんだ、わからないんだ。大事にできるわけないよ」 ――不安なんだ ミサト「今のあなた、周りの人々、それを取り巻く環境、どれもずっと永遠に続くものではない。時間は常に流れ、世界は変化の連続でできている。なによりも、あなたの心次第で、いつでも勝てるものなのよ」 ミトロン「これは?」 気が付くとミトロンは何もない世界に浮かんでいた。ただただ何もない世界。それが自由。何者にも束縛されない、自由の世界だった。 その代わりに何もない。 ミトロン「そんな、どうしたらいいのかわかんないよ」 レイ「不安なのね」 アスカ「自分のイメージがないのね」 自分が考えない限り、何もない世界。 ――それが自由 冬月「どうしたらいいのかわからないのかね?」 ミトロン「どうしたらいいんですか?」 ゲンドウ「不自由をやろう」 一本のボーダーラインを与えられた。 ゲンドウ「これで基準ができた。でもこれで自由がひとつ消えた。お前は勝たなければならなくなった。少し不安が消えた」 それは自分の意識。 ミトロン「これは、僕の意識」 ミサト「パチンコ台にボーダーが存在するのは、あなたの周りの世界だけ。自分の意思で自由に打てる。その気になれば、パチンコの捉え方を変えることもできる。自分自身も変わることができる」 ゲンドウ「お前をかたどっているのは、お前自身の心とその周りの世界だからな」 ミサト「あなたが捉えている、現実の形なのよ」 ――それがボーダー ミトロンは、何も無い空間に戻る。そこでは自分の存在が消えていくのを感じる。自分以外なにも無い世界では、勝ちと負けの境界が無くなっていく。 ――それは何故? レイ「そこには、ミトロンしかいないから。自分以外の存在がないと、自分のボーダーを認識できないから。人は、数字を見ることで、自分を知る。自分のボーダーを知ることができる」 ――自分のイメージ? レイ「そう。他の人の数字を見ることで自分の数字を知っている。他人との格差を見ることで、自分の位置をイメージしている。あなたは他の人がいないと自分が見えないの」 ミトロン「他の人がいるから自分がいられるんじゃないか。一人はどこまで行っても一人じゃないか」 ミサト「他人との違いを認識することで、自分をかたどっているのね」 レイ「一番最初の他人は母親」 アスカ「母親はあなたとは違う人間なのよ」 ミトロン「そう、僕は僕だ。ただ、他の人たちが僕の心の形を作っているのも確かなんだ!」 ミサト「そうよ。ミトロン君」 アスカ「やっとわかったの?バカミトロン!!」 ――――続く