彼女は目が大きくて、肌もツヤツヤで、胸も……。 いや、胸の事はどうでもいい。 とにかく、言動から何から何まで、とてもじゃないが、俺よりも年上には見えなかった。 「しかもあの子、旦那がいて、子持ちだったんだよ」 「……………」 これが、俺が、長い夢から醒めた瞬間だった。 パチンコホールで捕まえて ~最終話~ 俺は、この事件を境に、そのホールに行くのをやめた。 だが、仕事はやめなかったし、パチンコもやめなかった。 暫くパチンコをやめていた時期もあったが、俺はやっぱりパチンコが好きだ。 前の様に毎日行く事はなくなってしまったが、行けば、8割近くは勝った。 金の為でも、女の子の為でもなく、今は純粋にパチンコを楽しむ為にパチンコ屋に通っている。 馴染みのパチンコ屋では、パチンコ仲間も出来た。 実は最近、彼女も出来た。 彼女はパチンコは全く経験がないというので、いつか2人で行こうと約束をした。 毎日は本当に充実していて、昔の自堕落に過ごしていた俺は嘘の様だった。 あの人の事は、全然恨んでいない。 始めは『騙された』と思ったが、そもそも俺が勝手に1人で燃え上がっていただけで、彼女は別に俺を騙そうとしていた訳ではないのだ。 寧ろ、今の自分が居るのは、あの人のおかげだとも言える。 仕事を始める事が出来たし、パチンコの勝ち負けを知り、パチンコを楽しむ事も覚えた。 やっぱり、あの人は俺にとって、幸福を運んでくれる女神だったのだ。 そう思える様になったある日。 俺は街で女神を見かけた。 俺は信号待ちをしていて、彼女も横断歩道の向こう岸で信号待ちをしていた。 当たり前だが彼女は私服で、暑い夏の日だったので、涼やかな白いワンピースを着ていた。 あれから更に3年が経ったが、彼女の姿は全く変わっていない。 本当に人間か……? 俺がじっと見つめていると、彼女も俺に気が付いて、パッと笑顔を見せて手を振ってくれた。 まさか俺の事を覚えていてくれているとは思わなかったので、俺はひどくびっくりした。 信号が青に変わり、2人の距離が縮まる。 俺が何か声を掛けようと口を開くと、彼女は口に人差し指を当てて、シーッと言った。 話はしてくれないのかと、ガッカリしていると、彼女は擦れ違い様に、例の澄んだよく通る声でこう言ったのだ。 「パチンコホールで捕まえて!」 俺は、にっと口角を上げた。 彼女は、きっとまたどこかのパチンコホールでコーヒーガールを始めたのだ。 33歳のコーヒーガールとは。 全く、図々しい女神もいたものだ。 俺は振り返らずに先を急いだ。 照り付ける日差しは厳しく、 蝉が遠くでいつまでも鳴いていた。 馴染みのホールに続く道は暑く、背中にじんわりと汗が滲む。 俺は拳を突き上げて、長い前髪の隙間から青い空を見上げた。 不思議と体中に力が湧いて、 『今日も勝つぞ!!』 と思った。 END... 御愛読、ありがとうございました。 少しでも面白いと思って頂けましたら幸いです 拍手など下さったら、パチログを続ける為の力になります(笑)