『今更なんですケド薄桜鬼がスッゲェんすよ!』 そう熱弁する後輩は、口のなかに入れたペペロンチーノをグシャグシャ噛みながらなんともまぁ楽しそうに確変率から確変中のことや通常時の演出を語るのである。 昼休憩をサイゼリアへ後輩と入ってから20分、ニンニクの臭いが気になるところだが話を聞いてみれば彼のトーク力なのか、はたまた薄桜鬼という中二病なタイトルからなのか、私の射幸心を鷲掴みにされたのは事実だった。 聞けば、84%以上の確変率と選べるボーナス。 皆さんも知っているだろう、私は逃げも隠れもしない男である。例えそこに開けちゃいけないパンドラの箱があろうとも、例えそこに一つは金髪美人のいる扉が、もうひとつはサーベルタイガー3頭が待つ扉が二択で待っていようとも、出口はこちらですなんて誘導をものとはせず、私は危険を省みず箱も扉もガンガン開けていく所存であり、だからこそ負けつづけてしまうわけだが、しょうがない、これが男に生まれた性なのだ。 その日の仕事も終わり、後輩と近くのホールへ連れパチをすることになったが後輩の彼女にきつく怒られるからと少々打って帰るというプランへ。とはいってもやるのはMAX機、甘さを無くした暴虐無人の怪物である。 時期も経ち薄桜鬼の台には誰もおらず二人並んで座ることになったがここは先輩として一年も経たないスカスカの上下関係ではあるがコーヒーくらいはと席を立ちカフェオレを二つ買って席へ戻れば、 『先輩!見てください!激熱激熱!』 ゲ…ゲキアツ? まだ数分もしてないが、もしかしてそんな名前のキャラクターでもいるのか?そうならば、とんだお騒がせキャラクターだなとホント言えば思わなかったけど、指差す後輩の画面に目をやれば、なんと巨大なプッシュボタンが出現し、なんの迷いもなく即座に押した瞬間にタイトル部分が中割れし画面全体がレインボーに輝いた。 正直、やる気が一気に削がれたのは言うまでもない。 好きだった女の子に今日ちょっといいかなって言われ、表ッ面は平常心の仮面を被るけど内心メチャクチャ動揺と期待と不安が押し寄せ授業中ハァハァしながら告白か!告白なのか!?と妄想し、その日の放課後に『用事ってなんだよ』ってぶっきらぼう演じて聞いてみると手紙を渡されて、『実は〇〇君に渡してほしいの!』って正直そうなんじゃないかなって思ってたぞチクショー!という状態に近かった。 ボーナスを消化する後輩はそのまま羅刹モードへ突入し、横を見ながら後輩の台の演出を楽しむ虚しさを必死に隠す私は自分の台の回転数の良さにちょっとやる気を戻したときだった、後輩の彼女から着信が来たようで一瞬にして笑顔から青ざめる後輩。そんなに厳しい彼女なのかと私も驚き、外に向かった後輩が次に戻ってきたその顔はさらに青ざめていて帰るというのだ。もちろん、確変の台は私に渡して。 おのおの諸事情は仕方ないが可哀想な後輩のため右打ち消化を始めること2時間。 私は自分の後ろに積んだ14箱のドル箱を眺め、明日勝ち金の半分と昼飯を奢る内容と写メを後輩に送り帰路に向かった。ちなみに薄桜鬼の内容がよく理解しかねたが少女の首もとに武士が噛みつく大当たりはなんとも恥ずかしくて後ろや横の人の視線を気にする私をホールの監視カメラが危険と見なしたのかスタッフが必要以上に私を見張っていたのを感じながらの遊技だった。